(※ 本記事の文章は2024年6月に書かれたものです)
70年代後半、HR/HM界には新たな風が吹き始めていた。当時はパンク・ロックブームやディスコブームが巻き起こっていたが、その裏で"目立つ"準備をしていたのがアイアン・メイデンなど、のちにNWOBHMと呼ばれるジャンルを牽引するバンドたちである。そして、その中のバンドのひとつが、ティノ・トロイとクリス・トロイを中心とするプレマンことプレイング・マンティスであった。彼らはメイデンほど社会現象の渦を巻き起こすようなバンドには成長しなかったが、1981年に発売されたアルバム「Time Tells No Lies」が後に、特に日本などでじわじわと評価され、伝説の名盤として知られるようになった。
90年代に入ると、今ではHRボーカリストとしてお馴染みすぎるドゥギー・ホワイトや元MSGのゲイリー・バーデンなどをボーカルに迎えながら、数多くの来日公演をこなした。日本ではいまだに根強い人気があり、これだけ長くしぶとくバンド活動が続けられているのは、ファン達がしっかり彼らの芸術性を評価してくれているからであろう。
というわけで、本日はそのプレマンが"最後の来日公演"をするというので、まあこれは見ておかねば損だと思い、行ってきた。場所は梅田クラブクワトロ。梅田は歩きにくいので、地上で道路を横断するのに手こずりながら、早めに会場入り。窮屈な階段で入場を待たされ、ジンジャーエールを片手に今度は狭苦しい人々の中50分くらい待った。周りの人たちの話が聞こえてくる...「俺は前に見たとき、ボーカルがゲイリー・バーデンやったわ」だと。羨ましいなぁ...見てみたかった。そんな事を思いながら、ニュースを見たり、会場を撮影したりして暇をつぶし、遂に開演時間はやってきた。
低音が会場に響く...ドラムのハンス・イン・ザントが現れ、観客をとにかく煽る!そしてメンバーたち全員がステージに現れ、一曲目「Panic in the Streets」 がスタート。例の名盤からいきなりぶちかましてきた。間違いなくオープニングを飾るにふさわしい一曲である。ボーカルのジョン・カイペルスはその長髪を振り回し、ティノ・トロイも結構暴れながらギターを弾いている。映像ではわからなかったが、ティノ、そんなに唾撒き散らしながらコーラスするのか...。
MCは一曲ごとに行っており、毎度メンバーが楽しみながらライブをしているのがよく分かる。まるでリハーサルの空気感。しかもそのノリに観客を巻き込んでいくので、物理的にだけでなく心理的にも、バンドとの距離がものすごく近く感じる。良いなぁ。
オープニングでぶっ放したあと、続くは90年代の名曲「A Cry for the New World」。この"ロック"と神秘の調合がプレマンらしさというものである。そして近年のアルバムから「Highway」や「Believable」、新譜からは「Defiance」を披露し、現在のプレマンの姿もアピールしたところで、私が好きなアルバムから「Borderline」。このサビの壮大さが大好きだ。続く哀愁のロック・バラード「Dream On」も感動した。ティノが弾くギターソロが素晴らしすぎて、これには目が離せなかった。
だがそれよりも、もっと目が離せなかったシーンがその後に続く。クリス・トロイのボーカル楽曲「Lovers to the Grave」である。その昔、プレマンのボーカルは彼が担当することが多かったが、近年はあまり披露することがなく、その珍しい彼のリードボーカルを聴ける楽曲がこれなのである。歌声は全盛期とほとんど変わっておらず、この安定感はなんだ?!と叫びたくなった。あと、彼はベースを弾いて動いている姿が想像の数倍カッコ良かった。魔力を帯びている。私はこのライブでさらにクリスが好きになった。
その後は「Rise Up Again」などのファンにはたまらないナンバーに加え、「Cry for the Nations」、「Keep It Alive」などの近年の楽曲をとことん浴びせにくる。そんな中、ちょっと異様な新曲が登場。「Standing Tall」である。ティノは観客たちに「みんな踊れるか?」と尋ね、何故か突然ディスコのような照明に。この楽曲がディスコビートだからか、プレマンとは思えないような空間へと一変した。まさかプレマンがこのような事をするとは思わなかったので、私はかなり衝撃を受けた...と同時にかなり面白かった。彼らなりのギャグかもしれない。
そんな事があったため気を緩めてしまっていたところで、再びプレマンの世界ど真ん中に突き落とされる。ライブ映像もかなりの回数見た代表曲のひとつ、「Captured City」が現れた。盛り上がってきたぞ...!ここで私が最も好きな楽曲「Time Slipping Away」もやって来る。リフの中毒性とコード進行のキャッチーさが異常。しかも、より良い初期バージョン風なアレンジで興奮。そして、本編最後は「Letting Go」の登場である。イントロのギターが特徴的で、一度聴けば誰もがきっと忘れられない。サビでは全員が拳をあげ、合唱。観客ほとんど全員がノリまくって歌いまくって、その熱狂のまま気持ちよく本編は終了した。なかなかの盛り上がりを見た...コアなファンがたくさん集まっているからだろう、ファンがみんな濃すぎし、熱すぎる。
そんなファン達はアンコール慣れもしているのか、みんなまったく他の素振りを見せることなく、真っ直ぐにプレマンコールへ。予定通り登場したメンバーは「Flirting With Suicide」を演奏し始めるが、この時なぜかティノが歌詞を忘却。私もよくバンドでやからすので、ティノでもあるんだな...と安心してしまった。
遂にラスト一曲に差し掛かるが(当時は2nd アンコールがあると思い込んでいたが、無かった)、その前にクリスから日本最終公演だからか、短い挨拶があった。初来日から40年近くが経ち、今日の大阪公演でその歴史は閉ざされる。若者である私は初参戦公演がラスト公演であったため、ただ悲しいだけなのだが、ギリギリで滑り込みセーフできたのは良かったし、最後だけでも見られてよかったと思う。
クリスの挨拶が終わると、最後の一曲へと突入し、フィナーレへ。もちろんそれは代表曲の「Children Of The Earth」である。なぜカラオケにないのか疑問すぎるほどの名曲だ。私はティノの後半の"えげつない"ギソロに感動し、コーラスで聴こえるクリスの歌声に感動した。圧巻のパフォーマンスでしかない。私の脳裏には1995年のライブ映像が映っている。全盛期と何ら変わらない姿が目の前にあった。
メンバー達は演奏を終え、舞台袖にはけていった。ライブは終了。観客数は少なかったが、熱狂ぶりは凄かった...超コアなファンが集う、彼らにとって素晴らしい別れの公演であったと思う。ちなみに、私は本日撮影した写真を感想と共にInstagramに載っけたら、バンド公式アカウントが見つけてくださり、なんとメンションしてくださった。ただのオタクの叫びを本人に読まれたのは、少し恥ずかしかったが...。
NWOBHMムーブメントの一端を担ったひとつの伝説、プレイング・マンティス。彼らは最後のライブツアーまで「伝説」のままだった。